★『いやしの窓』と題して当センター理事長賀来周一先生の著書である「気持ち整理&生き方発見~カウンセリング・ノート~」より、本文の一部を紹介して参りたいと思います。(不定期更新)★
≪「そーなんです」と「あっ、そうか」≫
人が自分自身の課題に気付いて、新しい生き方を獲得するときは、共感的理解と自己洞察を得たときである。そのとき人は思わず「そーなんです」と言い、「あっ、そうか」とうなずく。
人から話を聞いてもらっているとき、相手からこちらの思いを十分に汲み取ってもらったと感じると、思わず「そーなんです」という言葉が出てしまうものです。すっかり自分の思いが相手に伝わって、ひとりで悩んでいた自分の傍らに、もうひとりの同じ悩みを共有する存在をもったかのような思いが湧いてきて気持ちが軽くなるのを感じるでしょう。
カウンセリングでは、他者の悩みを聞くときには共感的理解が必要だといいます。相手の気持ちに寄り添いながら話を聴くことを意味します。どのような気持ちでいるのか知ってもらうと、それだけでクライアントの心のなかの負担は軽くなります。「私の気持ちをよく分かっていただいて有り難うございました」などと言われると、それだけでよかったなあと思うのです。「そーなんです」という言葉が相談者の口から出てくるときは、共感的な理解をしてもらったという反応なのです。
気持ちをよく分かってもらえたというステップを踏んだ相談者は、次のステップに向かって歩み出します。今までの自分とちがう、新しい自分の姿を発見するのです。そうなると、それまでの生き方とちがうなにかが生まれてきます。その瞬間「あっ、そうか」と言うでしょう。今まで考えてもいなかった世界が自分のなかにあることを発見した驚きです。「そうか。こういう生き方もあるのだ」と同じ自分の世界でありながら、今まで見えていなかったものが見えてくるのです。
そのためにはカウンセラーは、相談者とはちがった方向から物事を見なければなりません。物事には、ひとつの見方しかないということはけっしてありません。たとえば外出をするときに必ずドアに鍵を掛けたかどうかが気になって、何遍もチェックするくせのある人がいたとします。心理臨床の見地に立てば、不安除去のための強迫行動という診断がでるかもしれません。でもそう診断されただけでは、かえって辛くなるだけです。むしろ「それはとてもよいことです。安全を確認しているのですから、何遍チェックしても、し過ぎるということはありませんね」と言われるほうが安心するでしょう。言われた相談者は「あっ、そうか」と思うでしょう。
意外性、驚き、ユーモアのある言葉は、新しい生き方へのステップを提供します。
「気持ち整理&生き方発見」賀来周一著 (人間関係のなかを生きる P102~104より)