<卒業生の声>
26回生 S.O.さん
”友と師を授けられたり花筏”……卒業の日、Hさんの謝辞は私達の二年間をもれなく語ってくれていた。私達は共感を深くし、かけがえのない時間を共有できた喜びに満たされた。感謝がいっぱいだった。
あれから二か月。学んだことを忘れてしまった訳ではないが、それらは今静かに、心の底に沈殿したように思う。その感じが何かに似ている気がした。
それは吉野源三郎「君たちはどう生きるか」の読後感だった。昭和35年、小学校6年の私は、初めて出来た図書室で、装丁の美しさに惹かれてその本を手に取った。少し難しかったが、ぐいぐいと引きこまれた。そして、「この本は私のために書かれた本だ。」と強く思った。その思いだけがくっきり残り、なぜか内容を思い出さなくなった。
先頃、その本がまんが化されたこともあり、こんな時代に二百万部を超えるベストセラーになった。私も一冊買ってみた。読んでみると、内容を忘れてしまったのではないことが分かった。まっすぐ立って理想に目を向けようとする成長過程にある人に、決して駆り立てるのではなく、人間の弱さを抱きしめつつ語られる文章。自分の弱さに出会った出来事こそが、やがて自分の道を照らす標となるという愛情深い示唆。それらは、長年私の心の底を流れ続けていたのだと気づいた。
二年間の学びも正にそのようなものだった。成長を見守って下さる先生方やスタッフの眼差しは、いつも暖かかった。おかげで心の底の流れは穏やかに力を蓄えてくれたはずだ。
できない、情けないと悩みながら、私はこれからも心弱った人の傍らにいたいと思う。懸命に耳を澄ましたい。そうした日々を重ねながら、いつかそれが習慣となり意識しなくなる頃には、少しは何か実っているかもしれないと思う。
(2018/5 寄稿)